2025.12.08
2026年4月から、社会保険の被扶養者認定における、いわゆる「130万円の壁」の判定方法が見直されます。
今回の改正で最も重要なポイントは、扶養に入れるかどうかの判定基準が、従来の「今後1年間の収入の見込み」から、「労働契約(労働条件通知書)に記載された賃金から見込まれる年間収入」へと変更される点です。
これまでの制度では、「結果としていくら稼いだか」や「今後どれくらい稼ぎそうか」という 実績や予測 に基づいて扶養判定が行われてきましたが、今後は 「契約内容ベース」 での判定へと大きく考え方が変わります。
従来の130万円判定は、次のような事情をすべて含めて「今後1年間の収入見込み」を総合的に判断する仕組みでした。
シフトの増減
繁忙期の残業
急な人手不足による追加勤務
一時的な手当や臨時の収入
その結果、
「年の途中で収入が増えてしまい、想定外に130万円を超えた」
「あとから扶養を外れなければならなくなった」
というケースも少なくありませんでした。
このような “先が読めない不安” が、働く側にとって大きな心理的負担となり、結果として「働き控え」を生む要因になっていたのです。
2026年4月以降は、労働契約書や労働条件通知書に記載された賃金・所定労働時間などの契約条件をもとに、年間収入の見込み額を算定し、その金額が130万円未満かどうかで扶養認定を行う仕組みへと移行します。
つまり、
働き始める前の時点で
労働契約書の内容を確認することで
原則として「扶養に入れるかどうか」を判断できる
という制度になります。
これまでのように
「実際に働いてみないと扶養に入れるか分からない」
という不安定な状態から、事前に見通しを立てたうえで働き方を選べる制度へ と変わっていくことになります。
新しい仕組みでは、労働契約書に
毎月〇時間の残業が予定されている
固定残業代を含む
といった 恒常的な残業の記載がない限り、
突発的な残業や一時的な収入増によって 直ちに扶養から外れる扱いにはなりにくくなる とされています。
これにより、これまで多かった
「この月だけ忙しくて残業が増えた」
「一時的に収入が跳ね上がってしまった」
といった理由で、急に扶養を外れるリスクは、一定程度抑えられることになります。
今回の改正後も変わらない重要な点があります。
それは、通勤手当は、社会保険の扶養判定においては引き続き「収入」に含まれるという点です。
所得税では非課税になる場合がある通勤手当ですが、
社会保険の扶養判定では 全額が年間収入に算入されます。
労働契約書の内容を確認する際は、
時給
所定労働時間
通勤手当の金額
この3点は、必ずセットで確認することが重要になります。
今回の見直しは、働く側だけでなく、会社側の実務にも影響します。
労働条件通知書の記載内容が、これまで以上に重要になる
時給や所定労働時間の設定が、扶養判定に直結する
契約更新時の条件変更が、そのまま扶養の可否に影響する
といった点から、契約条件の設定や説明の重要性が、これまで以上に高まることになります。
2026年4月からの「130万円の壁」の見直しは、
単なる基準額の話ではなく、「扶養判定の考え方そのものが変わる」大きな制度変更です。
従来:今後1年間の「収入の見込み」で判断
今後:労働契約書に基づく「契約上の年間収入」で判断
これにより、
「働く前に、扶養に入れるかどうかを見通せる制度」へと転換していく一方で、
契約内容の確認が、これまで以上に重要な意味を持つようになります。
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