2013.11.28
今回も長いです・・・(笑)
1、労働契約か請負契約か
(1)争点
今回は、労働契約の形式が問題となりました。
労働契約か、請負契約かで、労働基準法等の適用があるかが異なるのです。
もし労働契約(民法でいえば雇用契約)であれば、労務提供者は「労働者」であり、労働基準法等により労働者保護の制度が適用され、反対に労働契約でなければ、それらが適用されないということです。
具体的には、労災保険や最低賃金、時間外労働手当、深夜労働手当、有給休暇、労働時間や休日に関する規定などです。
これらの適用があるかないかで、経済的救済に大きな差が出ます。
もちろん、労働基準法等の適用があって初めて監督官もその違反を摘発できるということになります。
(2)判断基準
労働契約かそうでないかの基準としてポイントとされるのは、使用者の具体的指揮命令の有無です。
具体的命令に対して断ることができるか、時間的拘束があるか、他人を使用しての労務提供(つまり下請に振ること)ができるか、仕事に使う道具や保険はどちらが負担するか、などが判断要素となります。
(3)労働契約であると認めさせる手段
ドラマの中では、「9時から5時まで働くことになっている」という時間に着目し、時間的拘束があることを根拠に、労働契約の認定をする方向に流れました。
労働契約であれば、労務提供側の義務として、時間的拘束を前提にした労務提供が行われるのが一般的です。
これに対し、請負契約であれば、労務の提供それ自体ではなく、仕事の完成が請負人の義務となります。
ですから、規定時間までに仕事が完成していれば義務は果たされたこととなり、いつから開始するか、どのような方法で行うかは請負人の自由なのです。
つまり、規定時間の直前に開始しても、下請人を利用しても自由なわけです。
そこで、監督官たちはボランティアと称して下請人となり、請負人とされたルームキーパーさんたちと、ベッドメイクを終えるべき時間の直前まで仕事を始めず、控え室に閉じこもりました。
客のチェックインに間に合わないのではないかと、悪徳社長をヒヤヒヤさせ、「これまで通り9時から5時まで働け」と発言させて、時間的拘束の存在を認めさせる作戦です。
もっとも、こんな派手なやり方をしなくとも、労働者に対する聞き取り調査等をすれば、契約変更の前後で労働実態が変わらないことについて、容易に証明できると思います。
土手山課長が、家族にいいところを見せるための演出ということでしょうか。
2 バカは土手山課長か、元妻か?さらには…
主人公ダンダリンは、不利な契約であると気付かずに契約書を交わした課長の元妻と、それを救えないと決めつける課長の双方にバカと言い放ちました。
バカという発言自体の是非はさておき、二人ともバカ呼ばわりに値するのかを考えてみました。
(1)課長について。
すでに明らかなとおり、労働契約か否かは、契約書面の題名ではなく、その実質的な契約内容から判断されます。
監督官である課長は、当然にその判断基準を理解しているべきであり、契約内容の実質に従って、摘発可能性を探るべきです。
労働者全員が契約に不満を持ち、かつ、会社を特に恐れているともいえない本件では、証拠集めも容易なはずです。
請負契約という書面のみで、監督官の権限外であると判断する姿勢は、バカ呼ばわりされてもやむを得ないでしょう。
もっとも、摘発をするにしても、何を根拠にするかは考える必要があります。
仮に今回の新契約が労働契約であると認定されても、給料が減ることを労働者が合意(労働契約法6条、8条)していたとすれば、給料の激減を理由とした摘発は困難です。
可能性としては、給料が激減した結果、最低賃金の規制すら守られていないことを理由とする摘発ということでしょうか。
(2)一方、元妻はどうでしょうか。
ドラマでは給料激減の事情がよくわかりませんでしたが、仮にその根拠や計算方法等が明示されていれば、契約書をよく読まなかった元妻はバカということになります。
しかし、契約形態が労働契約から請負契約に変わったという点だけについていえば、法律を特に勉強したことがない人であれば、その違いには全く気付かないのが普通です。
全く契約書を読んでいない場合は別として、バカ呼ばわりに値するのかどうかは微妙なところです。
(3)さらにいえば。
今回の契約を提案した胡桃沢という社労士は、元監督官だったという設定です。
そうだとすれば、労働契約か否かの判断が実質的になされるということを知っているはずであり、契約の名称を変えることの無意味さも解るはずです。
それにもかかわらず、経営合理化手段として法の潜脱手段を提案し、その不当性が暴かれると、監督官に対して逆ギレするというお粗末ぶりです。
何よりも、昔とは違って情報網が発達し、違法行為の摘発や社会的非難の可能性が格段に高まっていることを見逃しています。
ドラマ中では、手段を選ばず成り上がろうとする「切れ者」キャラクターとして描かれているものの、その手段が幼稚すぎて、既に「切れ者」の描き方として失敗しているようにすら感じます。
ということで、今回、バカ呼ばわりが最もふさわしいのは、この胡桃沢という社労士のような気がしました。
3 田中さん、サイコー!
ダンダリンの同僚監督官である田中さんは、監督署の花ともいえる小宮さんに片想いしている、お人好しのナイスガイです。
押しが弱くて小宮さんにその想いをなかなか伝えられなかったり、お人好しな性格が災いしてひどい目にあったりします。
その田中さんを演じる役者さんがめちゃウマで、私のツボに入ってます。
コメディタッチのドラマであることから、いわゆるベタな演技が多いのですが、その「間(ま)」が絶妙で、いつも爆笑させられます。
今回は、一件落着後の打ち上げの席で、署長がボランティアのすがすがしさを語った後、その話に関連づけて、「小宮君、ボランティアで田中君とつきあうってのはどう?」と発言し、それを聞いてびっくりした田中さんは飲みかけていたビールを思いっきり吹き出します。
その吹き出し方たるや、往年のザ・グレート・カブキを彷彿とさせるほどのきれいな霧吹きでした。
マンガ原作を実写化する場合、たいていは原作の画の迫力に負けるものですが、今回の吹き出し方は、マンガ原作にそのシーンがあったとしてもそれを上回ると思います。
もうすでに、田中さんが見たくてダンダリンを見ていると言っても過言ではないほどハマっています。(笑)
次回も楽しみです。
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